人が輝くと店が輝く

看板のない居酒屋繁盛物語

岡むら浪漫代表岡村佳明

僕は高校まで野球部で野球に明け暮れ、

高校卒業後はパチンコやウインドサーフィンをして遊びまくっていました。

母は、静岡県藤枝市で「岡むら」という居酒屋を開いていました。

「おふくろの店で夜働けば、昼間は海で遊べる」と思った僕は、

23歳の時から母の店の手伝いをするようになりました。

12年ほど経った時、65歳を過ぎた母が言いました。

「最後にもう一度このお店と家を新しく建て直したい。これは母さんの最後の夢。お前も手伝ってくれないか?」

最初は「今さら新しくしなくても」と反対しましたが、最後は仕方なく母の希望に同意しました。

数日後、お店の常連さんが、「佳明、お店を新しくするんだってな。すごいな」と声を掛けてきました。

「うん、それがおふくろの最後の夢らしいんだよね」

僕は面倒くさげに、まるでひと事みたいにそう答えました。

するとお客さんは、すごい剣幕で怒り始めました。

「おめぇはいくつになってもバカ野郎だな。それは母さんの夢じゃなく、30過ぎてもチャランポランなおめぇの将来を心配してのことじゃねぇか!」

「お前の母さん言ってたぞ。『私は何歳まで働けるか分からない。あの子がいつ本気になってもいいように、私の目の黒いうちにお店を新しくしておきたい』って」

その話を聞いて、僕はハンマーで頭を殴られたような気持ちになりました。



岡村佳明

岡むら浪漫代表

【おかむら よしあき】1962年静岡県藤枝市生まれ。35歳の時、店舗の改装を機に本格的に居酒屋経営に力を入れ、5年で3店舗に拡大。2006年、第一回居酒屋甲子園全国大会に出場、3位に入賞する。2013年、『看板のない居酒屋』(現代書林)を出版。現在は、講演を通して「人づくり」の重要性を訴えながら全国の飲食店経営者や若き起業家を応援している。