作家・三浦綾子 いのちのメッセージ
三浦綾子記念文学館特別研究員森下辰衛
三浦綾子の最後の長編小説が『銃口』です。ここで表現している銃口は「威嚇」です。言うことを聞かせようとするものです。
戦前から戦中にかけて「治安維持法」という法律がありました。特に昭和16年、アメリカと戦争を始めるにあたり、それに反対する人間がいたら困る。そういう人を取り締まるためにこの法律が利用されました。そういう意味での「銃口」です。
三浦綾子はこの作品を70歳の時に書き始めました。彼女は20代で結核と脊椎カリエスを併発し、13年間寝たきりでした。その後も喉頭がん、血小板減少症、60歳を過ぎるとひどいヘルペスを患い、直腸がんにもなりました。晩年はパーキンソン病です。このパーキンソン病予兆の中で、ある雑誌からの依頼で『銃口』の連載が始まったのです。
この小説に出てくるエピソードはすべて誰かの体験です。当時を知る人から「そんなことはなかったよ」と言われないように当時を知る人たちを取材して書いています。
●時代
『銃口』の主題は昭和16年に実際に起きた「北海道綴(つづ)り方(かた)教育連盟事件」です。「綴り方」というのは今でいう小学校の作文教育です。
「子どもたちが自分の目と自分の言葉で、自分の人生とこの世界を見つめ、生きる力と世界の真理を掴む力を育む。それが教育の中心であるべきだ」と考える北海道の先生たちが、作文教育の自主的な勉強会を始めたんです。ところがそれが治安維持法違反だということで50人以上が逮捕されるという恐ろしい事件があったんです。
当時、綾子さんは小学校の教師をしていました。しかし、
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三浦綾子記念文学館特別研究員
【もりした たつえ】1962年生まれ。23歳の時、病床の中で三浦綾子の本と出会う。92年から15年間、福岡女学院大学および短大で近代文学やキリスト教文学を講義。2006年、家族とともに三浦綾子の代表作『氷点』の舞台、旭川市神楽に移住し、三浦綾子記念文学館特別研究員となる。著書に『「氷点」解凍』(小学館)、監修に『三浦綾子366のことば』。講演CD、DVDは森下辰衛公式サイト「向こう岸へ渡ろう」で販売。
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