方丈記の世界

偽悪~自らを偽り、修行に励む

国際日本文化研究センター名誉教授荒木浩

◯方丈の庵

私は、平安時代から鎌倉・室町時代の文学作品を研究してきました。今回は『方丈記』について、現在私が考えていることも合わせてご紹介します。

『方丈記』は「ゆく河の流れは絶えずして」で始まる文章や、庵(いおり)での隠棲(いんせい)生活、災害の描写などがよく知られていて、今でも教科書はもとより、現代語訳や漫画など一般向けの出版も盛んに行われています。

作者の鴨長明(1155?~1216)は、父親が下鴨神社の代表(注1)という家に生まれ、将来はその後を継ぐような立場でした。

ところが長明がまだ10代の頃にその父が亡くなります。すると彼の人生は一変し、その後はなかなか社司(神主)になれませんでした。

30歳ごろには、それまで住んでいた父方の祖母の家から出て、新しく庵を造りました。昔の家に比べて10分の1ほどの大きさでした。建てた場所は川の側で、やれ風が吹けば危ないし、雪が降れば大変だしということで、なかなかひどい立地だったようです。

50歳ごろになると出家し、都の北に位置する大原で暮らすようになります。それからしばらくすると、遠く南の日野へ移り、今度はさらに小さな家を造りました。これが『方丈記』の由来にもなった「方丈の庵」(注2)です。

この庵は、簡単に分解できて、別の所で建て直せる仕組みになっていたそうです。「モバイル方丈」とでも言うのでしょうか。最近のキャンプブームで流行りそうですね(笑)。



荒木浩

国際日本文化研究センター名誉教授

【あらき ひろし】1959年生まれ。京都大学文学部卒。同大学院博士後期課程中退。博士(文学)。大阪大学、国際日本文化研究センター、総合研究大学院大学などを歴任。専門は日本古典文学。著書に『古典の中の地球儀 ―海外から見た日本文学』(NTT出版)、『京都古典文学めぐり 都人の四季と暮らし』(岩波書店)、『方丈記を読む 孤の宇宙へ』(法蔵館文庫)などがある。