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父との“出会い”が導いた障がい児教育の道

NPO法人「かかしの会」理事長/奈良県立明日香養護学校元教諭向野幾世

私は、「出会い」という言葉が好きです。教育者であり哲学者である森信三先生の、

「人間は一生のうち逢うべき人には必ず逢える。しかも一瞬早過ぎず、一瞬遅すぎない時に」という言葉があります。

私の人生も、まさにその通りでした。

私には、生まれてすぐに重度脳性まひの、父との出会いがありました。

障がいがある父は、足が不自由でした。そのため来客があった時は、床を這って玄関に出ていました。

すると、息を切らしながら大急ぎで玄関に出ていった父が、「シッシッ、あっち行け!」とか、

「おまえは引っ込んでろ。ここの主人を呼んでこい!」などと、心ない言葉をかけられているのが聞こえてくるんですね。

私はある日、そんな父に聞いたことがあります。「お父ちゃん、あんなこと言われて悔しくないの?」と。

父は言いました。「ちっとも悔しくない。私の体を見れば誰だって驚くだろう。でも、私はこの体だからこそ

人の値打ちが分かる気がする。人の値打ちは、身なりとか差し出した名刺で決まるものではない。

立派な身なりをしていても、心の貧しい人がいる。貧しい身なりをしていても、人間として立派な人もいるものだ。幾世、心の値打ちの高い人になるように」

この言葉は、私が今でも大切にしている父からの大きな贈り物です。



向野幾世

NPO法人「かかしの会」理事長/奈良県立明日香養護学校元教諭

1936年香川県生まれ。奈良女子大学文学部卒。国立教護事業職員養成所修了。奈良県立明日香養護学校教諭、奈良県立障害児教育センター所長、奈良県立教育研究所障害児教育部長、奈良大学講師などを歴任。一貫して、障がい児の教育の機会拡大や、障がい者と健常者の共生を目指してボランティアの育成や啓発・教育活動を展開。98年、文部大臣より教育功労賞受賞。著書に『お母さん、ぼくが生まれてごめんなさい』(扶桑社)ほか。