ゴミ拾い侍
株式会社ダイレクトメッセンジャー 代表取締役中河原 智也
2024年10月、私がプロデュースするパフォーマンス集団「ゴミ拾い侍」が、SDGsをテーマにしたデンマークのフェスに招待されました。グループを創設した6年前は、このような日が来るなど思いもしませんでした。
私はかつてプロミュージシャンとしてデビューしました。しかし、CDの売り上げが落ち込む中、引退を余儀なくされました。
やりきれない悔しさを抱えながらも、私は音楽の道をあきらめました。その悔しさを紛らわせるため、私は新しい仕事に没頭しました。そうして、いつしかエンタメとは縁遠い生活を送るようになっていたのです。
ところが、2016年に私のエンタメ魂に火をつける男が現れました。男の名は後藤一機(いっき)(当時41)。
彼はもともと原宿の歩行者天国でパフォーマンスをしていました。しかし、ゴミ問題などを理由に歩行者天国が廃止されたことで、活動の場を失ってしまいました。
そこで、彼はこの問題を逆手に取って、ゴミ拾いをパフォーマンスに昇華し、「ゴミ拾い侍」の活動を始めたのです。
ただゴミを拾うのではありません。デニムの着物を纏い、火ばさみを刀に見立て、侍が刀を振るうようにゴミを拾います。そして、背中にしょった竹篭に入れるのです。それは本物の殺陣をイメージさせるものでした。
「おもしろい」と思った私は、彼のプロデュースを申し出ました。「ゴミ拾い侍」を通じて、エンタメの力で社会にポジティブな影響を与えることができれば、私のかつての挫折も意味あるものになると思ったのです。しかも、「ゴミ拾い侍」は唯一無二の存在です。市場に競合相手がほとんどいない状態なので、たやすく成功するだろうと考えました。
しかし、それは甘い考えでした。活動を続けるためには、それなりに資金が必要です。ですが日本では、ゴミ拾いはボランティアのイメージですので、パフォーマンスの依頼をされた時、「お金を取るの?」と言われることもありました。
それでも、「ゴミ拾いはカッコいい」「ポイ捨てはカッコ悪い」という、そんな当たり前を日本から世界に発信するため、赤字覚悟で出演することもありました。
転機が訪れたのは、2018年です。SNSにパフォーマンス動画を公開したところ、たくさんの人がそれを視聴してくれて、瞬く間にフォロワーが増えていきました。
それから「ゴミ拾い侍」は一気に注目を集め、テレビや雑誌に取り上げられるようになりました。
それに伴い、ゴミ拾いに関心を持ってくれる人も増えていきました。また、企業からイベントの出演の依頼が舞い込むという、うれしい副産物も生まれました。
私たちが目指すのはゴミのない世界です。そのため、私は「80億人ゴミ拾い侍計画」という壮大な目標を掲げています。世界中の人がゴミを拾うようになれば、きっと美しい世界を実現できるはずです。
と同時に、エンタメに関わる者として「ゴミ拾い侍」がパフォーマーたちの新しい表現の場になることも目指しています。
竹篭に刻んだ「モラルのない心を成敗」という言葉を合言葉に、これからも日々ゴミ拾い活動を続けていきます。