芸術・文化をまちづくりに

なぜ奈義町は若者に選ばれたのか?

劇団「青年団」主宰/芸術文化観光専門職大学学長平田オリザ

全国で人口減少や合計特殊出生率の低下が問題になっています。

特に人口減少が激しいのが地方都市で、若者の人口流出が止まりません。

行政も対策を講じていますが、恋愛も結婚も出産も子育ても全て個人の自由です。

だから結局のところ、人々の意識やマインドをどう変えるかを模索するしかないということになるわけです。

経済界も政治家も、口をそろえて「雇用が問題」と言います。

しかし、より深刻なのは、若者が地元に戻ってこない現実です。

私が教えている大学の学生たちも、「田舎はつまらない」「故郷には帰らない」と話します。

都会の刺激的な暮らしを知ると、故郷の生活が魅力的に見えなくなってしまうのです。

ただし、そんな若者たちでも、全員が「故郷に帰りたくない」と思っているわけではないのです。

コロナ以前の調査では、都会に住む子育て世帯の約4割が「地方移住を考えたことがある」と答えていて、最近では約7割がそう答えています。しかし、実際には多くの人が移住していません。

気持ちはあるのに移住しないのはなぜか?

理由の一つは「雇用」です。若者たちは、「故郷には自分に合った仕事がない」と言います。

ただそんな彼らも、東京で必ずしも理想の仕事に就けているわけではありません。

でも東京では「自分に合う仕事が見つかるかもしれない」という期待を持てるのです。だから若者たちは都会を離れないのです。



平田オリザ

劇団「青年団」主宰/芸術文化観光専門職大学学長

1962年東京生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。劇作家・演出家・「青年団」主宰。大阪大学教授。『東京ノート』で岸田戯曲賞、『月の岬』で読売演劇大賞優秀演出家賞、最優秀作品賞、『上野動物園再々々襲撃』で読売演劇大賞優秀作品賞、『その河をこえて、五月』で朝日舞台芸術賞グランプリを受賞する。